ステンレス切削加工|ステンレス材質の特徴・種類・用途と加工の注意点

見た目は鉄のようでいて、ほとんどサビない金属がステンレスです。食器類や刃物などステンレス製品は私たちに身近なものですが、加工が非常に難しい素材でもあります。今回はステンレスの基礎知識を踏まえて、ステンレスの材質特徴からステンレス鋼の種類、ステンレスを選ぶ理由や用途、切削加工の注意点までを解説します。

ステンレスとは

ステンレスは英語のstainlessが名前の由来で「サビない」という意味を持つ金属です。実際にはまったく錆びないというわけではないので、「サビにくくした鉄鋼」という捉え方が適切かもしれません。

金属素材としての正式名称は「ステンレス鋼(stainless steel)」です。ステンレスは50%以上の鉄(Fe)と10.5%以上のクロム(Cr)を含む合金素材を指します。鉄は酸化、すなわちサビやすい金属の1つですが、クロムを混ぜることにより非常にサビにくい特徴を持つようになります。

従来、ステンレス鋼の生産にはコストがかかるため、金属材としては高価な部類でした。しかし、近年の技術革新により生産性の向上と品質の改善が進み、生産コストが下がって加工素材に採用しやすくなりました。製造技術のイノベーションが起こった結果、ステンレス製品が急速に普及しているというわけです。

ステンレスの材質特徴

ステンレスには特筆すべき性質が5つあり、その中にはメリットだけでなくデメリットも含まれます。ステンレス加工をおこなう上では知っておかなければならない知識です。ここでは、ステンレスの材質特徴を詳しく説明します。

強度・硬度が高い

ステンレス鋼の種類によっては強度が非常に高いのが特徴です。金属の強度に関わる引っ張り強さや耐力が、1平方ミリメートルあたり1000N前後になるもの(SUS431やSUS630)があります。これは強度区分10.9のクロムモリブデン鋼と同等かそれ以上の機械的性質です。強度が高いステンレス鋼は製品の耐久性を向上させます。

また、ステンレスには硬度が高い種類も存在します。焼き入れ・焼き戻しをおこなったSUS440Cの硬度は615で、超硬合金を除けばトップクラスの硬さを誇る金属です。硬度が高いほど傷が付きにくく、摩耗に強いといえます。

耐熱性が高い

耐熱性は高温でも強度を保つ性質のことです。一般に金属は、高温になると柔らかくなって強度が落ちます。ステンレス鋼は耐熱性が低い種類でも500℃付近までは強度を保てます。ただし、それ以上の温度になると急激に強度が下がるため注意が必要です。

通常の使用範囲では問題ありませんが、住宅火災では5~10分で室内温度が500℃に達し、1時間以上になると1000℃前後※にもなります。ステンレス鋼に耐火機能を期待するのは難しいと考えたほうがよいでしょう。

※ISO834で示す標準火災温度によると、1時間値945℃、2時間値1049℃、3時間値1110℃。

耐食性が高い

ステンレスに含まれているクロムが表面に酸化皮膜(不動態皮膜)を作ることでサビを防ぎます。被膜の再生能力が高く、表面に小さな傷がついてもすぐに目立たなくなります。湿気や塩気の多い環境ではサビることもありますが、鉄や銅に比べれば腐食の進行は緩やかです。

高い耐食性を持つステンレスを素材に使えば製品寿命が長くなります。修復や部品交換の手間も減らせるため、メンテナンス性も向上します。

リサイクル性が高い

使用済みのステンレスは、ステンレススクラップとして80~90%が回収されます。ほかの金属と区別しやすく、ほとんどサビることもないためリサイクルが容易です。回収したスクラップのほぼ100%が再利用されています。

ステンレス鋼原料のうち、約60%がステンレススクラップです。国内のステンレス生産はスクラップ利用が前提になっていると言っても過言ではありません。

熱伝導性が低い

ステンレス鋼の熱伝導率(W/m K)は84で、鉄(90.9)よりも低くなっています。銅(398)の約4.7倍、アルミ(236)の約2.8倍も熱を伝えにくい金属です。

熱伝導性が低いことは「熱が移動しにくい」ことを意味します。すなわち、保温効果や断熱効果を持つということです。この性質は魔法瓶などの製品利用に役立つ一方で、切削加工ではマイナスに働きます。

加工性が低い

ステンレスは難削材に数えられ、切削加工が難しい特徴があります。その理由は、強度が高くて熱伝導性が低いことです。硬くて削りにくい上に加工時の熱が逃げないため、工具が早く傷んでしまいます。

加工硬化を起こしやすいステンレス鋼の種類もあり、粘性の高さと相まって加工精度が出なかったり工具を破損したりするため、注意が必要です。

ステンレス鋼(SUS)の種類

ステンレス鋼は結晶構造の違いで「フェライト系」「オーステナイト系」「マルテンサイト系」に分類できます。フェライトやオーステナイト、マルテンサイトは、鉄が持つ金属組織の名称です。鉄を約1000℃の高温状態にするとオーステナイトの組織が生じ、急速に冷却するとマルテンサイトの組織が生じます。

ステンレスは、これらの結晶構造を常温で安定させたもので、クロムやニッケルの成分の含有量によって各系の特性に違いが出ます。ここでは、ステンレス鋼の種類やそれぞれの特性を解説します。

フェライト系ステンレス鋼

フェライト系ステンレス鋼は16%~18%のクロムを含み、耐食性に優れています。安定したフェライト組織で熱処理によって硬化しないため、ステンレスの中では成形加工性と溶接性も良好です。オーステナイト系に比べ熱伝導率が高くて熱膨張係数が低いので、寸法変化はそれほど大きくありません。また、フェライト系の結晶構造が「体心立方格子」であることから常に磁性を持ちます。

フェライト系はニッケルを含まないステンレスです。ニッケルを含まないことで他系ステンレス鋼よりも安価になるだけでなく、オーステナイト系で発生しやすい応力腐食割れが起こりにくくなっています。

しかし、極端な温度状態にさらされると脆くなってしまうのがフェライト系の欠点です。高温では475℃脆化やσ相脆化、低温では脆性破壊が起こるリスクがあります。

代表的なフェライト系ステンレス鋼はSUS430です。このSUS430を基準に、クロムや炭素の含有率を変えたり別の合金元素を添加したりして、多種多様な鋼種が開発されています。

オーステナイト系ステンレス鋼

オーステナイト系は、18%のクロムと8%以上のニッケルを含むステンレス鋼です。炭素をフェライト系より多く含み、常温でもオーステナイトの結晶構造である「面心立方格子」を保ちます。

耐食性はステンレス鋼の中で最も高く、延性や靭性にも優れる金属素材です。バランスがとれた特性を持つことから、ステンレス鋼全体の60~70%程度をオーステナイト系が占めています。

オーステナイト系ステンレス鋼を塑性加工すると、加工部分がマルテンサイトになって加工硬化が起こります。この特性を利用して、伸びや強度を調整することも可能です。オーステナイトの面心立方格子は磁性を持ちませんが、マルテンサイト化すると体心立方格子に変わって常磁性を示します。

オーステナイト系ステンレス鋼は、フェライト系やマルテンサイト系よりも溶接がしやすい素材ですが、鋭敏化と応力腐食割れ、高温割れが起こるリスクもあります。一方、フェライト系と違って低温靭性があるため、極低温でも使用できるステンレスです。

代表的なオーステナイト系ステンレス鋼はSUS403で、調理器具や食器によく使われています。金属製の食器などに「18-8」の刻印があるのを見たことはないでしょうか。この刻印はクロム18%-ニッケル8%のSUS403で作られていることを意味しています。これらの用途には、SUS403の特徴である「熱伝導性の低さ=保温性の高さ」が最適なためです。

マルテンサイト系ステンレス鋼

マルテンサイト系は13%のクロムを含み、常温でマルテンサイトの金属組織(体心立方格子)を保つステンレス鋼です。オーステナイト系に比べてニッケル含有量が少ないので、マルテンサイト系ステンレスのほうが材料コストを抑えられます。

炭素量が多いため、焼入れで強度を高めたり、焼戻しで耐摩耗性と靭性を強化したりすることができます。その代わりクロム含有量が少なく、他系ステンレス鋼ほどの耐食性は発揮できません。

マルテンサイト系ステンレス鋼は、オーステナイトを急激に冷やすことで作られます。その際、炭素と窒素を内部に閉じ込めたまま体心立方格子を形成するため、格子が歪んで硬くなるのが特徴です。また、体心立方格子を持つことで常磁性を示すようになります。

マルテンサイト系ステンレス鋼に切削加工や塑性加工をするときは、焼きなましが有効です。800~900℃から徐々に冷ますことで、材料が柔らかくなって加工しやすくなります。溶接では、200~300℃以下で発生する「低温割れ」や、作業後の時間経過で起こる「遅れ割れ」に注意します。

代表的なマルテンサイト系ステンレス鋼はSUS403とSUS410です。耐食性と加工性を改善したSUS410Sや、被削性を高めたSUS410F2・SUS416があります。また、焼き入れと焼き戻しをして機能性を増したSUS420系列やSUS440系列もあり、用途に合わせた選択が可能です。

ステンレス材質を選ぶ理由

ステンレスは加工しにくい金属ですが、それでも製品素材として選択するメリットがあります。ここでは、ステンレス材質を選ぶ理由について説明します。

製品の耐久性を高められる

ステンレスの特徴といえば、高強度で耐熱性・耐食性が高いことです。衝撃や圧力に負けず、傷にも強くてサビないので、ステンレス製品が簡単に壊れるようなことはありません。長期にわたって使用される建築用材や、劣悪な環境で稼働させる機械などに有用な金属素材です。

製品のメンテナンス性が向上する

耐久性とも関連しますが、サビや汚れに強いことから修理や交換の頻度が少なくてすみます。ステンレスの手入れ方法は簡単です。表面の砂やホコリを払って、水で濡らした柔らかい布かスポンジで拭くだけです。多少の汚れがついたとしても中性洗剤を使えば綺麗に落ちます。細かい傷がついても、クロムの酸化皮膜が再生して表面を保護します。

水回りに強い製品が作れる

耐食性の高さにより、水に頻繁に触れるような用途でも問題ありません。流し台や食器類はもちろん、屋根や道路標識など屋外で風雨を受けるものの素材として利用されています。

ステンレス材質の用途

SDGsの機運が高まる昨今では、リサイクル性が高いステンレス材質に注目が集まっています。ステンレスの材質特性は非常に優秀で、広範囲の応用が可能です。以下、さまざまな分野におけるステンレス活用事例を紹介します。

・家電

洗濯機や食器洗浄機のような水を使う電化製品にステンレス部品が使われています。そのほか低温または高温で使用する製品にも用いられます。例えば、冷蔵庫や炊飯器、電子オーブンレンジなどです。

・家庭用品

ステンレスの耐食性の高さは、郵便受けや、花瓶、じょうろ、物干し竿などで発揮されています。包丁やはさみのような刃物類にも利用されます。

・レジャー用品

ステンレスを使ったレジャー用品の代表例は、ゴルフクラブや釣り道具です。スキー用具にも用いられています。

・屋内の水回り

フォークやスプーン、ナイフといった食器類の多くがステンレスです。鍋や流し台、魔法瓶、給湯器、浴槽も同様です。水回りの器具や設備にはステンレスが多く使われています。

・精密機器

IT機器では、ハードディスクの外装部品がステンレスで作られています。カメラのボディや時計部品もステンレス製です。

・輸送機械

自動車や自転車、オートバイ、鉄道車両などの部品にもステンレス鋼が使用されています。航空機の部品の多くはアルミ合金で製作されますが、排気系はステンレス製です。

・産業機器

食品加工機器やビール貯蔵タンクのほか、原子力発電や化学プラントなどの産業用設備がステンレスで製造されています。

・建築

断熱性能があるステンレスは屋根材として最適です。建物の構造材や内装・外装、配管などにも使われています。ドアノブや蝶番といった建築金物の多くもステンレス製です。

・土木

トンネルの内装板や太陽熱利用機器などにステンレスを使用します。河川・ダム施設では構造材と水門、各種設備にステンレスを使用し、長寿命化とともにメンテナンス削減を図っています。

ステンレス切削の注意点

ステンレス鋼は有用な特性と幅広い用途を持っていますが、加工に関しては非常に難しい金属素材です。切削加工は特に難易度が高く、細心の注意を払って作業をしなければなりません。ここでは、ステンレス切削の注意点を解説します。

ステンレス切削に適した工具を使う

ステンレス鋼は非常に硬いため、通常の工具ではすぐに傷んでしまいます。コーティング付き超硬合金製の工具なら耐摩耗性に優れているため加工しやすいです。

エンドミルで切削する場合は、刃への負荷が小さい多刃を用いたり、ポジティブすくい角の刃を使ったりするのがよいでしょう。強ねじれ刃は熱を逃して工具の負担を軽減できます。

穴あけ加工の際は、デュアルリードドリルが効果的です。デュアルリードドリルはねじれ角に変化をつけたもので、ドリルの剛性が高い上に切粉の排出もスムーズにおこなえます。

切削しやすいステンレス鋼を使う

どのステンレス鋼も切削加工は難しいのですが、フェライト系は比較的やりやすい素材です。被削性が他系より若干よく、加工硬化も起こりにくいのが理由です。

オーステナイト系は粘り気が高くて加工硬化しやすいので、切削加工には向きません。マルテンサイト系も硬いため、そのままでは切削が難しい素材です。ただし、焼きなましをすればフェライト系に近い被削性が得られます。

ステンレス鋼には被削性を改善した快削ステンレスも存在します。鋼種でいうとSUS430FやSUS303、SUS416、SUS420F、SUS440Fです。ただし、快削成分を含むことによってステンレス本来の特性が劣化するデメリットもあります。

エアーの吹き付けやクーラントで加工熱を下げる

ステンレスは熱伝導性が低く、加工時の熱が加工部分に残りやすいのも切削を難しくしている一因です。加熱の影響で工具の寿命が縮んだり加工硬化が起こったりするからです。

加工熱を下げるにはエアーの吹き付けや水溶性のクーラントが有効です。加熱しすぎないように回転数や切削速度、切込み量を調節する技術も求められます。

ステンレスの種類や特徴を理解して切削加工に役立てよう

ステンレスは鉄とクロムの合金で、強度と耐食性に優れた素材です。ステンレス鋼は結晶構造や成分によって、フェライト系、オーステナイト系、マルテンサイト系に分類され、性質もそれぞれ異なります。

耐久性やメンテナンス性の良さから、ステンレス製品は各分野で幅広く利用されています。特に水回りで多く活用されているのが特徴的です。屋内・屋外問わず耐食性が求められる器具や設備のほとんどがステンレス製です。

ステンレス鋼の特性は有用ですが、加工を難しくする要因にもなっています。切削に適した工具と素材を選び、加工方法にも注意することが大切です。

小林製作所では日々ステンレスを削っており、経験とノウハウを蓄積しています。お気軽にご相談ください。